就労継続支援施設(A型・B型)の開業と建築
就労継続支援(A型・B型)事業所を開設するためには、次の設備基準を満たしていなければなりません。
秋田県で障がい福祉施設、高齢者施設の施設設計を行っている一級建築士事務所のやまと建築事務所です。
以前、「増加する障がい福祉サービスと福祉施設」と「利用率が伸びている障がい者施設」で、障がい福祉サービスの構成、人口動態や利用率が伸びている障がい者施設について、どんな施設があるか、などついてお伝えしました。
今回はその中で通所施設として利用率が非常に伸びている就労継続支援A型と就労継続支援B型の施設について開業前に知っておくべき建築的な建物の法律や開業後の注意点等をお伝えします。
【目次】
- 就労継続支援A型・B型の概要
- 就労継続支援施設の開所に関わる法律
- 就労継続支援A型・B型の事業所の立地
- 就労継続支援A型・B型の設備基準
- 人員(スタッフ)基準について
- 補助金を活用して施設づくりを検討される場合
①就労継続支援A型・B型の概要
就労継続支援A型
利用者は、65歳未満で障害がある方です。障害がある方でも一般企業への就労が困難であり”就労が可能である”方と限定されています。
利用者定員は10名です。
事業所と利用者が雇用契約を結び、生産活動の機会の提供、知識および能力の向上のために必要な訓練を行います。
雇用契約を結ぶため、利用者は給料が支給されますが、主な仕事は内職に近い内容ですが、赤字が多いため、平成29年以降、開業に対しハードルが上がっているのが現状です。
経営者は、雇用・労災・健康保険などの各種保険の整備が必要であり、提供(紹介)する仕事が、収益性があり、継続的かつ安定的に仕事がある事業でなければなりません。
現在、人手不足が多い製造業やサービス業から業務委託される形態での事業所が望ましいとされています。
なお一般企業に就労後も6ヶ月は就業生活での相談など支援の継続は引き続き行わなければならないと定められています。
就労継続支援B型
A型と同じく65歳未満で障害のある方が利用者ですが、A型では”就労が可能である”方に対し、B型は、”雇用契約に基づく就労も困難である”方が対象です。
利用者定員は20名です。
就労継続支援の中でもA型は雇用契約を結びますが、B型は雇用契約を結ばなくても利用できる違いがあります。
施設運営において就労継続支援B型は利用者との雇用契約が不要なので、参入するハードルが下がり、A型より開設しやすいです。そのためか契約者比ではB型はA型の3倍以上もある状況です。
就労の機会の提供や、生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練と、その他の必要な支援を行います。
仕事としては内職的な軽作業や販売業が多く、簡単な清掃や農作業などもあります。
定員は一般的に20名の施設が多いですが、1日当たり最大人数のことなので、実際は週に2、3日しか働かない方もいることを考えると、20名定員の施設なら契約者数はもっと多くする必要があります。
②就労継続支援施設の開所に関わる法律
就労継続支援(A型・B型)事業については、立地条件も大事ですが、よい物件があったとしても、その建物が建築基準法や消防法の基準を満たしていなければ、その建物を使用することはできません。
【建築基準法】
就労継続支援(A型・B型)事業を行う建物は、建築基準法上の基準を満たしている必要があります。
そのため、新たに土地を見つけ、建物を作る場合は必ず障がい者施設に適応される法律や、働き方などを理解している設計事務所に相談しましょう。
また、既存の物件を使用する場合には、当該物件が建築当時に工事完了後の完了検査を受けていることを確認しなければなりません。
完了検査を受けているかどうかの確認は、検査完了後に交付される「検査済証」で確認できます。
完了検査済証がない場合には、物件所在地の建築確認所管行政庁で検査済証の交付の有無を確認することもできます。
また、店舗や住居として使用されている既存建物を、建築基準法施行令第19条第1項で定められている「児童福祉施設等(就労継続支援はこれに含まれます)」として使用する場合には、用途変更という建築確認申請が必要となります。(但し、床面積が200㎡を超えるの場合)
床面積が200㎡以下の建物の場合には、建築確認申請は不要ではありますが、新たな用途の防火避難関係規定等に適合させる必要はあります。
なお、用途変更を行い、既存の建物を利用する場合に必要となる建築確認申請手続きにつきましては、建築士・設計事務所にご相談ください。
【消防法】
就労継続支援(A型・B型)事業の建物は、消防法令上、消防用設備の設置基準が厳しい特定防火対象物に指定されています。
主に必要な設備としては、避難誘導灯、自動火災報知設備、消火器等があります。
なお、テナントビルや共同住宅の1階店舗部分に入居する場合、建物全体の規模や用途によって、他の消防設備が必要となる場合があります。
詳しくは、事前に物件所在地の消防署予防課で確認してください。
③就労継続支援A型・B型の事業所の立地
就労継続支援(A型・B型)事業所の設置にあたっては、利用者の交通の利便性や社会参加が可能かどうかは欠かせない要素となります。
就労継続支援(A型・B型)事業所の立地については、次のようなことに注意しなければなりません。
・近隣競合事業所の状況の把握 ・新規参入して十分に収益が得られるのかどうか ・候補物件に設備基準を満たすのに十分な面積があるか ・送迎サービスを行う場合、駐車場を確保できるか ・市町村担当部署に施設の必要量に達していないかを確認 ・都市計画法担当部署で用途地域等の確認 ・建築基準法担当部署で用途変更等の必要性の確認 ・管轄消防署で必要消防設備等の確認 ・浸水想定区域と土砂災害警戒区域の確認 (市長村担当部署) ・工事や事業の概要について近隣住民等への説明 (トラブル防止のため) |
④就労継続支援A型・B型の設備基準
A型B型に差異はなく、建物全体に対する考え方は以下の通りです。
・建築基準法や消防法を遵守していること
・出入口以外に非難できる構造が望ましい
・建物が2階建以上の場合、エレベータ等の設備や、避難経路を複数箇所必要
・出入り口や通路にスロープや手すり等バリアフリー対応
必要な部屋は、
・訓練・作業室・・・訓練や作業に支障がない広さ(自治体により一人当たりの床面積が定められている場合があります)
・相談室・・・プライバシーや話の内容が漏れない間仕切りなどがあれば、多目的室との併用が可能
・洗面所、便所・・・利用者が使いやすい設計(手すりの設置など)
・多目的室・・・相談室との兼用可能
・事務室
⑤人員(スタッフ)基準について
新たに就労継続支援(A型・B型)事業を開設するためには、次の人員を配置しなければなりません。
必ず施設計画に移る前に確認しておきましょう。
※指定基準の考え方は指定権者により異なる場合がありますので、必ず事前に事業所所在地を管轄する指定権者にご確認ください。
A型 | B型 | |
管理者 | 1名以上 | 1名以上 |
サービス責任者 | 1名以上(60人以下に対し) | 1名以上 |
生活支援員および職業指導員 | 10名に対し1名(常勤1名以上) | 10名に対し1名(常勤1名以上) |
サービス責任者は、実務経験と相談支援従事者初任者研修およびサービス管理責任者研修を修了している方に限られています。
また実務経験の要件に関しては自治体により異なる場合がありますので、開業する地域の自治体に確認は積極的に行うべきです。
経営側からすると、サービス責任者を採用することが一番難関かもしれません。
スタッフが不足している状況で施設が先にできてしまうと、運営できずに維持費がかかってしまいます。不足している人材については採用計画も立てながら施設計画を行いましょう。
昨今、資格者の採用が困難になっており、早期の対応が求められます。必要な人材とそれぞれの募集内容などをまとめ、求人サイトに掲載し、施設開設前に体制を整えておきましょう。
⑥補助金を活用して施設づくりを検討される場合
一般的に、新たな施設を開設する際、資金が潤沢にあるという企業は多くはありません。そのため、福祉関係の事業には補助制度が国から設けられています。
しかし、よく内容を理解して申請しないと、補助金を得ることが出来なくなるため注意が必要です。
このような補助金は申請さえすれば、補助金を受給できるものではありません。また、補助金を獲得してから施設の建築や増改築、設備の購入を具体的に進めることもできません。全て事前に計画し、申請する必要があります。
補助金申請の流れ
通常、補助金を活用する場合、建築士を絡めた上で申請を上げる必要があります。下記に補助金申請の流れを記載しております。補助金活用を検討されている方は、こちらをご確認ください。
補助金申請の主な流れ | |
①相談 | 補助金申請に必要な図面と工事概算を把握するために、設計事務所に相談しましょう。 |
②調査・基本計画・概算工事費の算出 | 補助金申請に必要な図面と工事概算を把握するために、設計事務所に相談しましょう。 |
③事業計画書の作成 | 上記の資料を基に、事業計画書を作成する |
④事前申請・審査 | 適切な窓口に事業計画書等の必要資料を提出する |
⑤内示 | 内示が出た後、実施設計を設計事務所に発注する |
⑥実施設計 | 実施設計図書により、工事費の実施予算が確定させる |
⑦本申請・交付決定 | 実施予算が確定次第、本申請を行う |
⑧入札・工事発注 | 交付決定後、入札により、施工会社及び工事費請負金額が確定する |
⑨着工 | 契約締結後、着工 |
⑩検査・竣工・お引き渡し | 補助金担当部署の検査後、竣工引き渡し |
⑪補助金交付 | お引き渡し後、補助金が交付されます |
補助金の特徴と受給する上での留意点
補助金の主な特徴 | 留意点 |
原則後払い | 補助金を当てにしても、審査に通らない場合もある |
募集期間が短い、競争率は高い | 常に公募していないかを確認する必要がある |
事業計画書の提出が必要 | 補助金の需給が目的になってしまい、申請条件に合った事業計画書を作成することで、本来の事業目標やスケジュールに影響を与えることがある |
事務処理が増える | 受給した場合、補助金を利用して購入したものは、見積書、納品書、請求書などを区分して保管し、提示する義務があったり、金額が大きい支出については、2社以上から見積もりを取得することや、契約書の提示が必要になる場合があり、業務量を増やすことになる |
もちろん、申請して要件さえ満たせば、どの企業も受給できるものではありません。 補助金を受け取るためには、国や地方自治体の求める審査に追加する必要があります。高額な補助金が予定された場合は、申請企業も多くなり、競争率も高まります。
早期に障がい者施設の設計に精通している建築士に相談し、対策を立てながら建築計画を進めることをおすすめします。